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『エクリI』(宮本忠雄訳、弘文堂)
ゲシュタルトが主体に対して形成効果を及ぼしうることは或る生物学的実験によって証明されるのですが、この実験そのものは心的因果性の考えとははなはだ無縁なので、これをそのようなものとしてあえて定式化することができないほどです。それにもかかわらずこの実験によると、ハトの生殖腺の成熟には同類を見るということが必要条件であって、それにはハトの性別はあまり重要ではなく、――しかもこの条件は十分でもあって、個体の身近に鏡の反射面をおくだけでその効果が得られるほどだということが認められるのです。同様に、トビイナゴが孤棲型から群棲型へと変わる系統上の移行は、或る段階の個体に、その種固有の運動をそなえてさえいれば類似の像がもっぱら視覚的に動くのを見せるだけで、ひきおこされます。